国木田独歩

実行せざる思い付きは空想と称し、また妄想と称す。
-[1871-1908] 小説家・詩人 国木田独歩の言葉-

国木田独歩ってさ。まったくなじみのない作家だよねえ。でもさ、高校生の頃にね。「武蔵野」っていう小説を読んだのだ。その中にね「昔の武蔵野は萱原(かやはら)のはてなき光景をもって絶類の美を鳴らしていたようにいい伝えてあるが、今の武蔵野は林である。」って一節があるんだよ。この小説は原題がね「今の武蔵野」って題らしかったんだけど、その後「武蔵野」って変わったのだ。今の武蔵野は住宅地だよ。太平洋戦争の末期の頃は、武蔵野もまだ田舎だったんだろう。中島飛行機の発動機(エンジンだな)工場があったために、ボーイングB29の大空襲を受けて甚大な被害をだしている。まさか独歩は「武蔵野」を書いた半世紀後に、この叙情的な武蔵野の林が、焼け野原になろうとは誰が想像するだろう。独歩はこの時代の作家がよく患う、肺結核に冒され、たった36歳でこの世を去ってしまうのだ。「実行せざる思い付きは空想と称し、また妄想と称す」とはたぶん道半ばにて自分の生涯を悟った独歩自らに言った言葉だと信じたいなあ。しかし、長生きして、焼け野原の「武蔵野」を見ずにすんだのは、幸運かもしれないなあ。

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