野上弥生子

この海の暴君に仕える方法は、利口な家来が人間の暴君に仕える態度を、そのまま学ぶより他に仕方のないのを知っていた。抵抗しないことであった。怒るだけ怒らせておくことであった。そして幾らかでもその怒りをよい方に利用することであった。
-[1885-1985] 小説家 野上弥生子「海神丸」より-

野上弥生子は偉大な女性作家だよ。なんせ一世紀のあいだ日本が激動する時代を見てきたんだよ。まだ江戸を引きずる明治に生まれ、昭和の末期バブルの真っ最中に亡くなった。この人の小説は一に「秀吉と利休」があげられるだろうな。バイカー修ちゃんは利休に興味を持ったのはこれを読んでからだったもの。とても女性が書いたとは思えないもので、狂っていく秀吉を見つつ達観し卑下する利休の心理を描いたものとしては最初のものじゃないかと思うぞ。バイカー修ちゃんは今、永井荷風の「断腸亭日常」を読んでいるけど、昔のもの(ここでは、昭和の初期や大正時代をさす)を読みなれると、昨今の口語体はバカらしく感じてくるから不思議だ。今日の一言はこの秀吉や利休ではなく「海神丸」だ。これはね、漂流した貨物船の中で飢えに苦しみ人肉を食べるという強烈な内容なのだ。武田泰淳の「ひかりごけ」が有名だけど、それよりはるか前に書かれてる。これ以上書かないけど、これこそ女性が書いたということがショッキングだし、この人の前ではどんないまどきの女性作家でもかすんでしまうくらいのエネルギーがあると思うぞ。もし機会があったら読んでみたらどうだろう。単におどろおどろしいものではないからね。

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